FJ COLUMN

添乗員
添乗員の挨拶に込められた想い


 
旅行が好きな方なら、一度は「添乗員付きツアー」に参加したことがあるのではないでしょうか。空港や集合場所で、スーツ姿の添乗員が笑顔で「皆さま、本日はよろしくお願いいたします!」と挨拶する姿は、旅の始まりを感じさせる象徴的なシーンです。
 
でも、その「挨拶」に、実は深い意味と覚悟が込められていることをご存じでしょうか? この記事では、添乗員の体験談をまじえながら、添乗員が挨拶に込めた想いについて紐解いてみたいと思います。

 

添乗員の仕事は「旅の司令塔」

添乗員とは、旅行会社が企画したツアーに同行し、参加者の安全・快適・円滑な旅をサポートするプロフェッショナルです。飛行機やバスの手配、ホテルのチェックイン、観光地での案内、トラブル対応など、業務は多岐にわたります。
 
しかし、添乗員は、単なる「案内役」ではありません。添乗員は、旅の全体を見渡し、参加者一人ひとりの表情や体調に気を配りながら、旅の流れをコントロールする「司令塔」なのです。

 

挨拶は信頼の第一歩

そんな添乗員にとって、最初の「挨拶」は非常に重要です。初対面の参加者に対して、安心感と信頼を与える瞬間だからです。
 
「皆さま、こんにちは。本日は○○旅行にご参加いただき、誠にありがとうございます。添乗員の△△と申します。これから○日間、皆さまの旅が安全で楽しいものになるよう、精一杯努めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。」
 
このような挨拶には、旅の責任を担う覚悟と、参加者への敬意が込められています。言葉の選び方、声のトーン、表情、身だしなみ—すべてが「この人に任せて大丈夫」と思ってもらえるように工夫されています。

 

挨拶から始まる人間関係

添乗員の仕事は、単に旅程をこなすだけではありません。参加者との信頼関係を築くことが、旅の満足度を大きく左右します。
 
そのため、挨拶の後も、バスの中でのちょっとした雑談、観光地での豆知識の紹介、食事の席での気配りなど、あらゆる場面で「人とのつながり」を大切にします。
 
特に高齢者や初めての海外旅行の方にとっては、添乗員の存在が心の支えになります。「添乗員さんがいるから安心して楽しめる」と言ってもらえる瞬間は、何よりのやりがいです。

 

体験談:初めての海外添乗で感じたこと

私が初めて海外添乗を担当したのは、イタリア8日間のツアーでした。参加者は年齢層が高く、海外旅行が初めてという方も多く、出発前から緊張感が漂っていました。
空港での挨拶では、できるだけゆっくり丁寧に話すよう心がけ、「皆さまの不安を少しでも減らせるよう、精一杯サポートします」と伝えました。
その言葉が功を奏したのか、参加者の表情が少し和らぎ、旅の途中では「添乗員さんがいるから安心して楽しめる」と言っていただけました。
帰国後、あるご夫婦から「次もあなたのツアーに参加したい」と手紙をいただいたとき、添乗員という仕事の重みとやりがいを改めて実感しました。

 

トラブル対応も添乗員の腕の見せどころ

旅には予期せぬトラブルがつきものです。飛行機の遅延、天候不良、体調不良、忘れ物、現地での言語の壁。そんなときこそ、添乗員の冷静な判断と迅速な対応が光ります。
 
例えば、飛行機が遅れて乗り継ぎができなくなった場合、代替便の手配やホテルの確保、参加者への説明などを瞬時にこなさなければなりません。その際にも、まずは「状況をご説明いたします」と丁寧な挨拶から始めることで、参加者の不安を和らげることができます。

 

体験談:飛行機遅延で見せた添乗員の挨拶力

ある冬のヨーロッパツアーで、帰国便が大雪の影響で大幅に遅延するというトラブルが発生しました。
空港の待合室で不安そうな表情を浮かべる参加者たちを前に、私は深呼吸をしてから、しっかりとした声で挨拶をしました。「皆さま、ご心配をおかけしております。現在の状況と、これからの対応についてご説明いたします。私が責任を持って、皆さまが安心して帰国できるよう手配いたしますので、どうかご安心ください。」
その言葉に、参加者の表情が少しずつ和らぎ、「添乗員さんがいるから心強い」と声をかけていただきました。その後、代替便の手配やホテルの確保を迅速に行い、無事に全員が帰国できたとき、改めて「挨拶の力」と「信頼の重み」を実感しました。

 

挨拶から見える、添乗員に向いている人とは?

添乗員の仕事は、旅の案内役であると同時に、参加者の安心と信頼を支える存在です。その役割は、最初の「挨拶」からすでに始まっています。では、どんな人がこの仕事に向いているのでしょうか?
 
まず、人前で話すことに抵抗がない人。添乗員の挨拶は、旅の始まりを告げる大切な瞬間。緊張している参加者に対して、明るく、落ち着いた声で話すことで安心感を与えられる人は、大きな強みになります。
 
次に、相手の気持ちを察する力がある人。挨拶の言葉ひとつにも、参加者の年齢層や旅の目的に合わせた配慮が求められます。たとえば、シニア層が多いツアーでは、ゆっくり丁寧な言葉選びが大切ですし、若者向けの旅では、親しみやすいトーンが喜ばれます。
 
そして、何より「人が好き」という気持ちを持っている人。挨拶は形式ではなく、心を通わせる第一歩。その瞬間に、参加者との距離を縮めようとする姿勢がある人こそ、添乗員に向いていると言えるでしょう。
 
挨拶は、ただの言葉ではありません。旅の空気をつくり、信頼を育てる“最初の魔法”です。その魔法を自然に使える人は、きっと素敵な添乗員になれるはずです。「人の思い出づくりを支えたい」という気持ちを持った添乗員は、旅という非日常の中で、参加者の人生の一ページを彩る存在なのです。

 

最後の挨拶に込める感謝

旅の終わりには、添乗員からの「最後の挨拶」があります。
 
「皆さま、○日間のご旅行、お疲れさまでした。無事に旅を終えることができ、心より感謝申し上げます。またどこかでお会いできる日を楽しみにしております。」
 
この言葉には、旅を共にした仲間への感謝と、再会への願いが込められています。参加者の笑顔や「ありがとう」の言葉は、添乗員にとって何よりの報酬です。

 

まとめ:添乗員の挨拶は旅の心をつなぐ

添乗員の挨拶は、単なる形式ではありません。それは、旅の始まりと終わりを彩る大切な儀式であり、参加者との信頼を築く第一歩です。
 
もしあなたが「人と関わる仕事がしたい」「旅が好き」「誰かの思い出づくりを支えたい」と思っているなら、添乗員という職業はきっと魅力的に映るはずです。
 
次に旅行に出かけるときは、ぜひ添乗員の挨拶に耳を傾けてみてください。その言葉の奥にある、プロとしての誇りと優しさを感じられるかもしれません。